=二人三脚編=


「さて、そろそろ二人三脚が始まりそうですぜ、伏犠先輩」
「…そ、そうじゃな…そろそろ行くか…」
「どうしたんですかい、なんだか顔色がすぐれないようですが…」
グラウンドで各科の面々が火花を散らす中、アナウンスでは二人三脚に出場する生徒は集合するようにと呼び掛け
ています。
しかし、伏犠先輩はなんだか調子が悪そうな様子です。
「大丈夫ですかい?」
「うー…実はさっきから腹の調子が悪くてのう。」
「そいつは大変だ。何か変な物でも拾って食ったんじゃないんですか?」
「馬鹿なことを言うな!わしが拾い食いなんぞ……あ……」
「食ったんですかい」
「もしや…実はさっき…」

つい30分程前のことでした。

「はぁーい、伏犠さん、元気ぃ?」
「珍しいのう。何の用じゃ」
伏犠先輩がいる応援席を訪ねたのはオロチ科2年ダッキさんでした。
「そんな冷たい言い方ないじゃない?差し入れ持ってきたのにぃ」
ダッキさんは伏犠先輩にオロナミンCを手渡しました。
「オロチ様からの差し入れよ?暑いだろうからって。優しいオロチ様って変な感じだけど、素敵」
「そりゃすまんのう。オロチもあれで気が効くんじゃな」
伏犠先輩はダッキに手渡されたオロナミンCを一気に飲み干しました。
「元気はつらつじゃ!がははははは」
「それはそれは。じゃあね〜」

そんな流れがあったことを左近君に話した伏犠先輩。
「完璧、それじゃないですか。何か仕込まれてたんじゃぁないんですかい」
「やはりそうか。あのオロチがみんなに差し入れなんておかしいと思ったんじゃ…が…うっ……トイレ………」
走りたくても走れない事情(漏)で、ゆっくりとトイレに向かう伏犠先輩。後ろ姿には哀愁が漂っています。

「仕方がない。俺がひと調べしてやりますかい」
左近君はオロチから差し入れを貰った人達を一人づつあたってみることにしました。

「飲んだ、が、なんとも、ない、ぞ」
「元気はつらつぅ?じゃよ」
「問題ない」
まずは戦国科応援席でシートを敷き酒盛りをしている面々に声をかけました。
「そうですかい…おかしいなぁ」

続いては曹魏科で聞きました。
「逆に聞こう。ダッキのパイオツをムニムニするのに、貴様の軍略を借りたいのだが…まずどうしたら…」
「孟徳!他の科の生徒に変な事をしゃべるな!」
「いや、元気そうでなによりです…」

続いては孫呉科で
「ふむ。先程孫策がダッキから何か貰って飲んでいた様子だが、もし何か入っていたとしても今頃汗と一緒に体外に
排出されていることだろう」
「おい!左近っていったっけか?俺の基礎代謝量、甘く見ない方がいいずぇ」
「…そりゃどうも」

そして蜀漢科では
「ええ、オロナミンCを1本頂きましたが、皆で分けて頂きましたので、さほど問題はないでしょう」
「一本を皆でですかい?」
「ええ。ああいう高級品はなかなか飲めませんので」
「(蜀漢科って20人くらいいなかったっけ…)」

他の科で聞き込みを繰り返した左近君でしたが、どうやらオロナミンCにはなんの問題もなさそうでした。
そうこうしているうちに応援席に帰ってきた伏犠先輩。
「まいったまいった。ピーピーじゃったわ」
「大丈夫ですかい?しかし、他の人達は何の問題もなさそうでしたぜ」
「なんじゃと?!じゃあもしかして…」
「なにか他に心当たりでも?」
「昨夜のガリガリ君かもしれんな」
「ガリガリ君…」
「わしはガリガリ君の大ファンでな、毎日食後に一本色々なお味を頂くのじゃが、昨日は己の限界に挑戦してみようと
すべての味をいただいてみたんじゃ」
「………」
「左近、今何種類のガリガリ君が世に出回っているか知っておるか?」
「……いえ」
「ガリ子ちゃん、そしてガリガリ君リッチを入れて10種類じゃ、(BOXタイプ除く)覚えておけ。そしてわしは昨夜のうち
にその10種類のガリガリ君をすべて食べつくすという偉業を達成したのじゃ!どうじゃ!参ったか!…」
「…………」
「な、なんじゃその軽蔑の眼は」
「…いえ、軍司らしく疑問を持ってるだけですよ。伏犠先輩がガリガリ君好きでも、全種類制覇する野望があったとし
てもかまいませんが、何故それをこの体育大会の前日にチャレンジしたのか、とね」
「……………」
「何故ですかい?」
「……………」
「自慢…したかったから………ですかい?…さっき思い出しましたが、昨日の下校途中で女カさんがこう言ってたの、
二人で盗み聞きしましたよね?『ガリガリ君いっぱい食べる人が好き』と」
「………」
「ガリガリ君が好きな伏犠先輩は『これはチャンス』と体育大会前日にもかかわらず、翌日女カ先輩に自慢するために
ガリガリ君をたくさん食べた。しかし、予想以上の腹への負担で今は少し後悔している……そんなとこですかい?」
「………左近はなんでもお見通しじゃのぅ。そのとおりじゃよ。自慢というか、わしは女カに『ガリガリ君いっぱい食った
ぞ、ガハハ』とナチュラルに話しかけたかっただけじゃ…例の一件(しつこいようですが、伏犠先輩恋の噂参照)から、
なんとなく女カとぎこちなくなっておるから…」
「やっぱりそうでしたか。他の女子との二人三脚よりも女カ先輩とのナチュラルトークを選んだんですね。…少し見直し
ましたよ…」
「左近…」

「しかし、残念なお知らせです」
「え?」
「昨日女カさんは『ガリガリ君いっぱい食べる人が好き』ではなく、『ガリガリ君よりいっぱい食べる人が好き』つまり、
ガリガリに痩せている男よりも、たくさんご飯食べる人の方がいいわよね、的な意味でこの発言をしたらしいです…確
認してきました」
「な、なんじゃと!!」
「伏犠先輩…」
「左近…」
「先輩の生き様、見せてもらいましたぜ」
「う、うわーん!!」
そうして伏犠先輩はまたお手洗いに駆け込みました。
そう、再び襲ってきた便意との決戦のために。


その後ろ姿を見送る左近君は後ろから声をかけられました。
「おい」
「はい?あ、女カ先輩…」
「これを伏犠に…では」
「………」
左近君の手には整腸剤が握らされていました。
「はは…こいつは…伏犠先輩喜びそうだ!」
左近君は急いで伏犠先輩の背中を追いかけたのでした。


続く


オロチに謝っとけ


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