=フォークダンス編= 「…伏犠先輩…とうとうやって来ましたね」 「…左近…わしはさっきから興奮で震えが止まらんのじゃ」 「伏犠先輩……そんなに?」 「うむ」 頷いて、伏犠先輩は両方の手を顔の前に掲げました。 事実その両手は微かに震えているようです。 「これからこのわしの手が数々の美女の白く滑らかな肌に触れることになるかと思ったら…夜も眠れません!」 「ど変態じゃないですか…」 伏犠先輩はよだれをふく仕種をしながらふふふと笑い、「男は皆変態じゃ」と、完全に開き直っています。 その時です。二人の目の前を大騒ぎしながら通り過ぎる集団がありました。 集団の中心ではより一層騒いでいる男二人が見受けられ、その二人は後ろからそれぞれ牛鬼に羽交い締めにさ れ、どこかに連れて行かれている様子でした。 「なんじゃろう」 「なんでしょうね」 その二人は董卓と曹操のようでした。 二人は 「貴様達!わしの酒池肉林を邪魔する気かぁ!離せ!離せデカブツ!」 「頼む!フォークダンスに参加させてくれ!絶対に女子の尻をなでたりはせんから!な!」 と、涙ながらに牛鬼に訴えていますが、多分牛鬼に酒池肉林やフォークダンスなどの難しい言葉は伝わらないと見え て「ブヒャーブヒャー」と完全に無視されています。 「ダッキの仕業かもしれんのぅ」 「女子に破廉恥行為を働きそうな人間を先に排除ってところですかね。伏犠先輩は大丈夫なんですかい」 「何を言っておる!わしは大丈夫じゃ。わしからは破廉恥のはの字も想像しがたいじゃろうしな」 「俺には容易に想像できますが」 そうこうしているうちに『皆さんおまちかねのフォークダンスが始まります。校庭の中央にお集まり下さい』というアナウ ンスが流れました。 「わしはビンビンじゃ!」 そう言いながら伏犠先輩は校庭の中央に急ぎました。 「やっぱりあの人を捕まえておいた方がいいんじゃないんですかねえ」 ボソッと呟きながら左近君も伏犠先輩の背中を追いました。 校庭中央では男女が円になって並んでいました。 「伏犠」 その時伏犠先輩に声をかけてきたのは愛しの女カさんでした。 「じょ、女カ…ど、どうした」 久しぶりに女カさんに話しかけられた先輩。声が少し震えているようです。 その震える声で「整腸剤をありがとう」そう言うとガハと少し照れて笑いました。 「いや、いいんだ。それより伏犠、私の頼みを聞いてはもらえぬだろうか」 伏犠先輩は耳を疑いました。 (あの誇り高い女カが申し訳なさそうにわしに頼みごと………こ………これは………) 「当然じゃ。お主の頼み、誰が断ることができようか!なんじゃ?わしに任せておけぃ!!」 「そうか、ありがとう」 しばらくしてつつがなくフォークダンスは始まりました。 皆さん手に手を取り合って楽しそうにオクラホマっています。 左近君も微笑みながら女子と手を取り合い華麗にステップを踏んでいます。 「今頃伏犠先輩もニヤニヤしながら躍っているんでしょうね…あれ?」 オクラホマミキサーでの円は女子が内側で男子が外側。 男子が前にずれていき、パートナーを交替していく仕組みですが、左近君は一人飛ばした女子の位置によく見慣れ た背中を見つけました。 その背中は大きく、とても女子とは思えない肩幅で…すぐにその人とわかりました。 左近君はその人の手をとり、 「伏犠先輩…何故女子の円にいるんですかい」 「左近か………女カに頼まれてな。女子の数が足りないそうじゃ」 「女カ先輩の…ですか」 「ああ、あいつの頼みじゃ。断るわけにいかんじゃろう。おかげでさっきからごつごつの男の手ばかり取っておる。とん だ災難じゃ」 「伏犠先輩……」 「でもな、左近。わしはこれでいいと思っておる。愛する女カの頼みを聞くことができたんじゃからな!」 「伏犠先輩…漢です」 「ああ、そうじゃな。じゃあな、左近。わし代わってくれなんて言わんからな!」 「もちろんです。代わるもんですか!」 そして二人は再び次のパートナーの元へと…後ろを振りかえると伏犠先輩は島津義弘と苦しそうに手を取り合ってい ました。 その目は濃姫と躍る左近君を恨めしそうに見つめていました。 続く なんだか伏犠先輩と女カさん、いい感じじゃあないか! 戻る |