==借り物競争編== 「はあはあ…なんとか仕込んできましたぜ、伏犠先輩…」 左近くんは肩で大きく息をしながら伏犠先輩の隣に座りました。 「ようやった!左近。さすがわしの見込んだ男じゃ」 伏犠先輩の見込んだ男、左近君はいったい何を仕込んだのでしょうか。 それは30分前の事でした。 「やあ伏犠」 「坊主…」 伏犠先輩に話しかけてきたのは蜀漢科一年太公望君でした。 太公望君は伏犠先輩の憧れの女性、女カさんと付き合っているという噂。 まだきちんと確かめたわけではないようですが、太公望君には外ならぬ対抗心を抱いているようでした。 「何の用じゃ」 「いや、どうしているかと思ってね。元気かね?」 「馬鹿なことを聞くな。至って元気じゃ」 「そういえば女カは借り物競争に出場するらしいな。科は違うが、同じ仙界出身者として応援してやろうと思う。伏犠 もしっかり応援せよ」 「坊主に言われんでも応援するわ。なんじゃわざわざそんなことを言いにきたのか?」 「いや、伏犠の顔を見に来ただけだ」 そう言うと太公望君は自分の応援席に戻っていきました。 「なななななななんじゃ!あの挑戦的な態度は!」 「そうですかい?そんな風には見えませんでしたが」 「あの坊主、遠回しに『女カの借り物になるのは自分だ』みたいなことを言いにきよったんじゃ。腹立たしいわ」 「考え過ぎですよ、伏犠先輩…」 「いーや、きっとそうじゃ。こうなったらわしが女カに借りられてやるわ。あの坊主の前で女カとお手手繋いで一着でゴ ールしてギャフンと言わせてやるんじゃ。左近、耳を貸せ!」 「…………」 「…………」 「わかりましたよ。やってきますよ」 こうして伏犠先輩はブレイン左近君に借り物が書かれている紙に仕掛けをするように頼んだのでした。 そう、女カさんが取る紙に伏犠先輩を借り物として選ぶ以外ないような内容の紙を仕込ませたのです。 「こんなこと自分でやってくださいよ」 「すまんのう、左近。いつもお世話になってます」 グラウンドでは借り物競争が始まっており、次は女カさんの番が来たようです。 「女カー!わしはここじゃからな!」 大声で女カさんを応援(?)する伏犠先輩。 女カさんはちらりともこちらを見ない様子です。 「女カめ、恥ずかしがりよって」 「いや、この前のちくわ事件(伏犠先輩恋の噂参照)をまだ怒ってるんじゃないんですかい…」 「………」 そんな話しをしているうちに、女カさんの組はスタートし、既に女カさんは借り物の紙を手にして辺りをキョロキョロして いました。 「おおお!女カがわしを探しておる!ここじゃ!わしはここじゃってば!」 「あれぇ?おかしいですね…孫呉科の席の方に走って行きますぜ?」 「なに!?何故じゃ?左近、おぬし紙になんと書いたんじゃ!」 「………………あ、そうか……」 「ぬおおお!女カが家康と手と手を取り合ってゴールしておる!左近!何と書いたんじゃ!」 「いやぁ……『尖った兜みたいのをかぶってるおっさん』です。そういえば、家康さんも尖ったのかぶってますよね…俺 としたことが」 「……………」 「そんなに怒らないでくださいよ。尖った兜をかぶったおじいちゃんにすりゃあビンゴだったんですかね」 「わしのこれはヘアーバンドじゃぁあぁ!!!」 「そうなの!!??」 こうして伏犠先輩の野望は不発に終わったのでした。 続く 戻る |