12 的中

最近の武田信玄は占いに凝っていた。
その占いは当たると大評判で、日に何人もが「占って欲しい」と、彼を訪ねるほどになっていた。
しかし、信玄は困惑していた。
何故なら彼の占いは適当も適当。いきあたりばったりでうまいこと言うだけのものだったのにもかかわらず、運がいい
のか勘がいいのか、その後占いの通り事が運んでしまう。そんなものだったからだ。
はたしてそれが「占いに凝っている」と言えるかどうかはわからないが、とにかく日々色々な人物が彼を尋ねた。

いくらか貰っているわけでもなかったので、懐が潤うとかいうこともなかった。
しかし、喜ぶ顔を見たり、ありがとうという言葉を聞いたり、自分の心が潤うような気がして、信玄はそれをしばらく続
けていた。
自分がいったことで相手に感謝されるのは気持ちの良いものだったのだ。

その日は予約が三件入っていた。
その辺りは部下に任せきりで、占い相手は信玄が顔を見るまで、誰だかわからないままだった。
「失礼いたします」
一人目は馴染みのあるよく聞いた声だった。
「幸村か?入っていいよ」
「はっ」
襖を開け、入ってきたのは真田幸村だった。
幸村は深々とお辞儀をし、畏まって、
「お館さまのお噂はかねがね多方面から聞き及んでおりまして、私も一度見て貰きたいと足を運んだ次第でございま
す」
そして信玄が
「楽にしていいよ」
というまで足を崩すことはなかった。
「今日はどんなお悩みかな」
「…ええ。実は…最近臭いと言われるのです」
「臭い?」
「はっ」
「誰に」
「…くのいちです」
幸村は少し頬を染めてぼそりとつぶやいた。
「好きな子に言われるの、キツイね〜」
「ええ、なんとかなりませんか、お館さま」
「うーん。おこと、別に臭くないけど」
「しかし、くのいちは私のことを『男臭い』と…」
幸村はどうやら言葉の意味を履き違えているようだった。
「それはね、…」
「私はもう、どうしたら良いかわかりませぬ」
彼は本当に悩んでいる様子だった。
臭いと言われた彼の気持ち。きっと一人で己の体の臭いを嗅いだりもしたのだろう。
本当に切羽詰まってここにきたのがよく見て取れた。
「わかった、おことにこれを授けるよ」
信玄は自分の懐から8×4を取り出し、幸村に手渡した。
幸村は初めて見るスプレー缶に怪訝な顔をしたが、使い方を教えると、まるで表情が変わって、「ありがとうございま
す!」そう言って自分の脇の下にシューと一吹き。
「こうですね?」
「そうじゃ、いい感じよ〜幸村」
「ありがとうございました!お館さま」
ほっとしたのか、幸村はうっすらと涙を浮かべているようにも見えた。
そして、幸村の脇の下には8×4のパウダーがうっすらとへばり付いていた。
そんな様子の彼を見て信玄は
「おこと、くのいちときっとうまくいくよー。わしの占いにはそう出とる」
「本当ですか!ありがとうございます!」
そう言うと幸村は喜び勇んでまた襖を開け、入ってきた時とは真逆の表情で室を出ていった。

良い事をした。
しかも、以前約束したように、二人の仲をちゃんと取り持ってやろう。
そうすれば今日の占いは当たったことになるはずだ。
信玄は硬く心に誓い、次の人物を迎えた。

「失礼しますぜ、信玄公」
またしても、よく聞き及んだ声の主は島左近である。
おお、という顔をして信玄は「左近、今日はどういったお悩みで」と続けた。
「ええ、実は最近、肩凝りが酷くて困ってるんですがね?なんとかなりませんか、信玄公」
医者に行け。
と言いたいのをグッと我慢して、
「そうじゃねえ…お主、ご先祖さまを大事にしとらんな、肩に乗ってるよ。」
「えーーー!見えるんですかい!?」
「うん。怒ってる。かなり」
「そいつは困りましたね…どうしたもんですかい」
「墓参りしなさい。実家に帰ったら仏壇に手を合わせなさい。わしが言えるのはそれだけじゃ」
「わかりやした。さすがは信玄公、そんなものまで見えるとは」
「いやいや、わしなんてまだまだじゃ」
「じゃあこれで失礼しますよ」
左近はそう言って信玄の室を後にした。

見える訳がなかった。
嘘も方便という言葉を頭に描きながら「いいことをした」と思っていた。

先祖を慈しむ心は大切なことだと筆者は常日頃から思っている。
いや、最近思うようになった。
何故なら悪い事続きの頃に職場の上司に「パンチさん、墓参りしてる?」と言われ、そういえば忙しさにかまけて最近
ご無沙汰だなとその頃から欠かさず墓参りをするようになったら、憑き物が落ちたように、悪い事が起こらなくなった
からだ。
脱線したが、そういうことです。

そして今日最後の客が信玄を訪ねた。
襖を開けのしのしと豪快に入ってきたのは上杉謙信、その人だった。
「…やあ、謙信…どうしたのじゃ…」
「宿敵が最近占いなんぞというくだらないものに凝っていると聞いて訪ねてきた」
「くだらなくなんかないよー。話を聞いてやるだけで、悩んでいることから開放されるっていう人もいるんじゃからね」
「ほう…」
「じゃあ謙信の話も聞いてやるかな」
「ふふ…そうか」
「まあ聞かなくてもわかるけど」
そう言うと信玄は人を呼び、酒を持たせた。

「これじゃろ?宿敵」
「さすがは宿敵」


二人は笑い合い、夜が更けるまで盃を合わせたのだった。


終わり


占いじゃなくてお悩み相談だろこれ。

ところで謝りたいのですが、これを書く前に幸村とくのいちの話を書いていまして、幸村→くのいちだったために、雪村
がくのいちのことを好き設定に勝手になっていまして、申しわけありません。
しかもそれはどっかいってしまったうえに、こういうことは最初に書けって話でホントすみません。
しかもいまいちまとまってなくてまたしてもすいません。
あやまりすぎてすいません