2 秘密


幼い頃、母に小さな箱を貰った。
本当にあなたが困った時に開けなさい。一度っきりだから、ちゃーんと考えて開けなさい。
と。
その一年後に母は亡くなったが、死の間際にも箱の事を気にかけていた。
母は恐ろしい顔をして言っていた
「本当にあなたが困った時に開けなさい。好奇心で開けたりしたら恐ろしい事が起こるから」
そのまま母は息を引き取ったが、別段悲しいとも思わなかったし、涙も出なかった。

 何年もたち、私は箱を開けることのないまま成長し、織田に嫁ぐことになった。
彼は部下には厳しかったが、私にはとても優しく、有意義な夫婦生活を送っている。
そう考えていた矢先、私の中に一つ疑問が芽生えた。
「信長は私を本当に愛しているのか」
元来さほど悩み込むような性格ではなかったが、これについては少し考えるところがあった。
それは性生活からくる。
 そっちの方は嫌いではなかった私は毎日でもそういうアレがあってもいいとさえ思う。
しかし、信長はあんなに精力的な面構えをしながらアレの方は非常に淡泊だった。
 多分たまに相手をしていると思われる蘭丸に聞いても
「…さあ…」
と、あいまいな返事をされるだけだった。
悔しかった。
 女としての魅力がないとは思えない。
たまには荒々しく抱きすくめられたい。
そう思うと夜も眠れず、たまに一人枕を濡らしたこともある。

そんな日々が少し続いた頃、母に貰った箱の存在を思い出したのだった。

 静かな部屋の中、私は箱を開ける。
そして中には…
「母上…ありがとう」
母は私の事を誰よりも知っていたのだ。
小さな頃からあまりかまっては貰えなかったけど、母はいつも私の事をちゃんと見てくれていたのだ。
私は箱に入っていた着物に袖を通し、信長の寝室へ向かっていた。


「どうしたお濃。こんな夜更けに…」
そう言う信長が私の恰好を見て喉を鳴らしたのをはっきりと認識した。
「その口の聞き方は何?」
「…なんと?」
「その口の聞き方は何と聞いているのよ、カスが」
「…………」
「濃姫様、私にお仕置きをして下さいとお言い!」
私には信長の物がはっきりと勃起しているのが見て取れた。
「母上、貴女は間違ってはいなかったようです」
箱の中には眩しく黒く光ったボンテージファッションと鞭、ロープが入っていたのだ。
私はそれに身を包み、それらを手に信長の元にきた。
仏壇からは太い蝋燭をも。
「の、濃姫様…その手に持った物で信長にお仕置きをして下さい………」
信長は薄い寝着のまま寝床に横になった。
「自分で服を脱いで四つん這いにおなり!!」
私は鞭を振り上げ信長の大腿部にそれを振り下ろす。
「あっあふ〜ん」
今まで聞いた事もない声を張り上げる信長………。

 私はこのために織田に嫁いだのだ。
これからの生活は今までよりももっと有意義なものになるだろう。
私は彼を影から支えよう。
色々な意味でずっと。
信長の野望を叶えるために。


終わり


まだ始まったばかりなのだ