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2 私
私の名は張僚、字は文遠。
魏国の将だ。
五虎将にも数えられ、文武共に優れるナイスガイだ。
はっきり言って女にもモテる。
遠征にまでついて行きたいと言ってきた女までいるほどだ。
私は冷静に
「戦地は危険だから、君のようなか弱い女性を連れて行くことはできないよ」
とお断りしたのだが、女は出発の見送りに来てまで泣いていた。
クールだけど、どこか熱い。そんなイチローのようなところが私の売りでもあるのだが。
最近そんな私を少し困らせている事がある。
それは蜀の将、関雲長の事だ。
実は以前から彼とは交流があり、私が得物に青龍演月刀を選んだのも、彼が使っていて
かっこよかったからで、彼には少なからずとも憧れを抱いていた。
それほど彼は強かった。
私は、少しでも彼に近づこうと必死で己を磨いた。
血の滲むような努力をした。
得物を振りすぎて手の豆が潰れ、それを繰り返すうちに手の平は硬くなっていった。
まぁこれがいいという女もいるのだが…フフフ。
以前から関雲長とはよく飲みに行っていた。
彼もかなりの酒豪で、私達のテーブルについた女には「関さんも文さんもよく飲むわ
ねぇ」と必ず言われたものだ。
まぁ専ら彼とは女のいる酒家にいくのだが…フフフ
先日も二人でいつもの店でいつも指名する女を傍らに飲んでいたのだが、ついていた女が
「今日から入った新人がいるんだけど、お二人に紹介しちゃおうかしら?」
と、その名を呼んだ
呼ばれた女は席に着いた途端に
「まぁ、ステキなお髭」
関雲長のヘソまで伸ばした長い髭をみてそう言った。
私は正直カチンときた。
確かに手入れは人一倍しているようだが、あそこまで伸びた髭をはたして素敵と呼べるだ
ろうか。
重力に比例してダランと垂れ下がり、赤子を一人抱えているくらいの重さにはなるのでは
ないかという感を受ける。
リボンの一つでも結べば可愛いげもあるかもしれないが。
関雲長にまさかリボンを結ぶこともできないだろう。
そんな事を考えていたら
「リボンなんか結んだらかわいらしいでしょうネェ」
怖いものしらずか、女はそう言った。
「よいぞ」
耳を疑った。
関雲長が自分の髭を指差しながらそう答えたのだ。
しかも赤ら顔をますます赤くして、だ。
「本当ですかぁ??」
キャピキャピという擬音がぴったりの声で女はなんと自分の髪を結っていたリボンをほど
き、関雲長のヘソまで伸びた髭に結びはじめたのだ。
結ばれている間、なんとも恍惚な表情をしている関雲長。
あんな顔は初めて見た。
確かに女の器量はよかった。
白い肌を着物から覗かせ、大きな瞳とすらりとした鼻筋。
またあどけない横顔が目をひく。
関雲長の好みの女であることは歴然だった
…しかし…
私は唖然としながらその一連の行為を見つめ、そしてため息をついた。
私が心から尊敬して止まなかった関雲長が、今夜初めて出会った女にヘソまで伸びた長い
髭をもて遊ばれている現実。
本当は目を背けたかった。
すると、
「○○ちゃん、ほら、関さんの髭ばっかりいじってて、ダメじゃない?文さんが羨ましそ
うな目でみてるわよ〜?」
「あ、ごめんなさ〜い」
何を言っているのか。
私が羨ましそうな目なんかするわけがないではないか。
女という生き物はわけがわからんことをほざきおって…
「張さんも素敵な男爵髭ですね〜なんだかジェントルマンって感じ」
なんだこの女は、取って付けたように。
確かに私の髭はジェントルマンな感じだが、男爵髭って、男爵芋じゃないんだから、そん
な呼び方をするな。
「とても似合っておられますわ〜そのクルンとした先ッチョを真ん中で結びたくなっちゃ
う」
結びたくなっちゃうだぁ??
……………
「よいぞ」
ヘソまで伸びた長い髭にリボンを結ばれた関雲長。男爵髭の両端を真ん中で結ばれた私。
二人は並んで家路についたのだった。
…………………………
つまり、私も、ああいう女に弱かったのだ。
そう。キャピキャピ系に、だ。
私を困らせていること…
その一件から、以前にも増して、関雲長とその酒家に足をはこぶことが多くなったのだ
が、必ずその女を指名するようになった。
そしてその酒家を訪れる時は必ず、関雲長の髭にはリボンが。私の髭は真ん中で結ばれる
ようになったことだ。
この恥ずかしい行動はいつまで続くのか。
きっと女があの酒家を辞めるまで続くのだろう。
女という生き物はなんとも恐ろしい生き物だ。
終わり
二人とも女性が大好きです(か?)。
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